People In The Boxによる3年半ぶりのフルアルバム「Kodomo Rengou」が発売されて2週間経ち、ようやく耳に馴染んで来たのでこの辺で全曲レビューを書いておきたいと思います。
前作「Talky Organs」から実に3年半ぶりとなったこのアルバム、相変わらず難解ではあるのですが前作よりもとっつきやすいというか、聴きやすくなったような印象があります。
早速1曲ずつ感想を書いていきます。
01 報いの一日
アルバムを再生して一番最初に聞こえて来るのはテーブルの上に鍵を投げるような音。
その後すぐに波多野さんの「ラララララ」というアカペラが始まる。
今まで聴いたどんなアルバムにもなかった、すごく独創的なアルバムのオープニング。
曲中ではギターの音が印象的。
どんなエフェクターを使っているのか分からないが、ボコーダーを通したかのようなギターの音ですごく面白い。
歌詞は
吐けばすぐに楽になるさ
の部分が耳に残りますが、歌詞全体として何を歌っている曲なのかは今のところわたしの頭では分からないままです。
でも、音が面白いので永遠に聴き続けられます。
02 無限会社
1/21にEX THEATER ROPPONGIで行われた「People In The Box 10th Anniversary The Final」で初めて聴いた曲。
ライブでは演奏前に波多野さんが「相当攻撃力の高い曲」と紹介していましたが、その前フリの通りの攻撃的なギターリフから始まる「無限会社」。
最初はスラッシュメタルで使われそうなぐらい尖ったギター音で始まるこの曲、確かに攻撃的なのだが攻撃一辺倒ではなく一曲の中に攻撃的な部分とそうではない部分が混在しているのもPeople In The Boxらしくて面白い。
ようこそ間違いの国へ
と連呼するサビ(?)の歌詞も印象的です。
03 町A
このアルバムの中で一番歌詞が好きだと感じた曲です。
見方によっては、どこにでもある平凡な「とある町」に存在する建物を列挙しているだけの歌詞なのに何故こんなにも心に刺さってくるのでしょうか。
誰の心の中にもある「わが町」への望郷の念を刺激するからでしょうか。
とにかくわたしはこの曲の歌詞がとても好きです。
なんだか泣きそうになります。
そして途中に挟まれる変拍子。
もう最高です。
ソロがギターソロではなくオルガンの音色を使ったソロになっているのも面白いです。
ライブではキーボードでソロを取るのか、それともギターにリアレンジされたソロが聴けるのか、それも楽しみです。
04 世界陸上
初めてイントロを聴いた時の第一印象は「ハイスイノナサっぽい!」でした。
ピアノ音を使った変拍子だからでしょうか。
曲中ではピアノのフレーズと同じぐらい自由にベースのフレーズも暴れ回る場面があって、聴いていて楽しいです。
05 デヴィルズ&モンキーズ
「ジェームズ・ディーンにマリリン・モンロー」から始まる歌詞が印象的なこの曲。
わたしが初めて聴いたのは前述のPeople In The Box 10周年ファイナルの六本木でした。
ジェームズディーンとマリリンモンローだけでなく、様々な職業や属性のヒトやモノが登場すること曲、初めてライブで聴いた時に「何かと何かを対比してる曲なのかな?」と思いました。
また、曲の終盤に「ハロウィン」という言葉が連呼されていることから、様々な職業も属性もみんな仮装のようなものだ、ということを歌っている歌詞なのかな?とも思いました。(※個人の意見です)
歌詞にあるヒッピーヒッピーシェイクは、あの有名なSMAPの「SHAKE」の歌詞にあった「ヒッピハッピシェイク」へのオマージュなのでしょうか。
06 動物になりたい
2016のアコースティックツアー「PITB Acoustic」で初演だったこの曲。
その後2017年の「 空から降ってくるvol.9~劇場編 〜」でも演奏され、同年発売の「Cut Five」にはライブ映像と共に収録されていました。
初聴きから約1年半経ってようやく音源として聴くことが出来ました。
タイトルの通りの「動物になりたい」という歌詞が衝撃的なこの曲。
ゆったりした曲調に乗せて動物回帰への願望が歌われます。
わたしは個人的にこの曲を聴きながら「動物になりたい」という5分12秒の現実逃避および妄想をするのが最高に贅沢な時間の使い方だと思います。(※個人の意見です)
曲の後半に出て来る
ほおばるビスケット 足りないアルファベット
の歌詞は子供の頃に食べたアルファベットが刻印されたビスケット「たべっこどうぶつ」を思い出して懐かしくなります。
あと途中の転調も最高です。
最高です。(大事なことなので2回)
07 泥棒
何やら不穏な不協和音から始まる短調のこの曲。
「退屈ちゃん」と「責任くん」というキャラクターや「被害者の会」「加害者の会」という組織が出てきます。
わたしの印象ではこれは何からの社会問題を歌ったものというより、1人の人間の脳内の動きのようなものを歌っている歌のように聞こえました。(※個人の意見です)
曲調も歌詞も、最後まで不穏な空気のまま終わります。
08 眼球都市
この曲は2017年の「空から降ってくるvol.9~劇場編 〜」で初めて聴きました。DVD「Cut Five」にも収録されています。
が、2週間聴きこんでも、歌詞カードを読んでも、何について歌っているのかまだサッパリ分かりません。
単純な語彙力不足で意味がわからない単語も聞こえてきますが、小気味よく韻が踏まれていくこの曲、意味など考えず、単純に聴き流すだけならかなり好きな曲です。
たぶん5年後ぐらいに意味がわかるタイプの曲だと思います。(10年経っても分からない可能性もありますが)
09 あのひとのいうことには
ピアノのフレーズが印象的な、優しくスローテンポな曲。
いかれた猛獣使い 噛みつかれたら抱きしめかえすの
とは無償の愛のことを歌っているのか?
この完璧ではない世界でただひとつ完璧なこと
とは一体何なのか?
様々な謎が頭に浮かんできますが、これらの謎はずっと謎のままにしておいたほうが末永く楽しめて良いのかもしれません。
10 夜戦
「夜戦」という物騒な曲名とはうらはらに、この曲を聴くと子供時代に夜、家を抜け出して草むらや公園に冒険に行く時のようなドキドキワクワク感を思い出させてくれます。
これぞ「子供連合」といった感じ。
途中ニュースを読み上げるような感じの大人目線のポエトリーリーディングを挟んで、子供連合の攻勢は続きます。
大人達がたいまつや暗視スコープで見つけようとしても絶対に見つけられない。
大人の心では見えない、それが子供連合なのでしょう。
曲調の面ではとにかく変拍子が最高だと思いました。
変拍子最高です。(大事なことなので2回)
11 かみさま
アルバムも終盤になって、MVが先行公開されていた名曲「かみさま」です。
わたしは最初にこの曲をMVで聴いた時、訳もなく涙が溢れそうになりました。
Peopleの新曲を初めて聴いた時に個人的によくある現象なんだけど、今心が激しく揺さぶられて謎の感情の高ぶりを感じている
People In The Box、波多野が撮影&編集した新曲「かみさま」MV(動画あり) – 音楽ナタリー https://t.co/DXISlyzUKj— 鹿主任 (@ch_enl) 2018年1月16日
初めて聴いた時からわたしはこの曲は母性を神性に例えた曲だと感じています。(※個人の意見です)
大好きな曲です。
12 ぼくは正気
静謐な雰囲気で始まるこの曲。
深い暗い森とは何の比喩なのか。
記憶のことなのか。
アルバムの最後に人の営みについてなんとなく考えさせられる一曲。
ジャケット・アートワークの感想
People In The Boxがアートワークに一貫性を持たせるなどこだわりを持っていることはインタビュー等を読んでもちろん知っています。
今回の「Kodomo Rengou」のジャケットは何を写しているのか一見して分かるため、「Talky Organs」や「Cut Four」などのジャケット写真よりは難易度は低いと思います。
写真のモチーフにもきっと何か意味が込められているんだろうとは思うけど、わたしは残念ながらあまり美術鑑賞に明るくないためPeople In The Boxの美しいジャケットを見ても「わぁーきれい」ぐらいの感想しか持てません。
なお、タワレコで買った時に特典としてもらった「アナザージャケット」、わたしはこんな感じでした。
中身が見えないような銀色の袋に入っていたので何種類かアナザージャケットはあるのでしょうか。
アルバム全体を通しての感想
表現方法こそ変化しているものの、People In The Boxとしての軸はもしかしたら昔から変わっていないのかもしれないと思いました。
例えば、本作収録の「町A」に出てくる「わが町」に存在する建物を俯瞰で見下ろしているかのような歌詞。
そして町の俯瞰から突然「陽の射す部屋」というパーソナルスペースに戻ってくる感覚。
都市や地球を俯瞰で見る視点は、昔からたびたびPeople In The Boxの歌詞に登場していたため、安心感すら覚えます。
また、「自分の部屋」というのもPeople In The Boxの歌詞には昔から何度も出てくるモチーフです。
なんとなく、昔People好きだったんだけど今は離れちゃってる人達にこの「町A」あたりを聴かせたら今のPeopleにまた興味を持ってくれるんじゃないか?という可能性を感じました。
今回の「Kodomo Rengou」は3年半ぶりのフルアルバムということですが、3年半の間にはリリースもライブもあったのでファンとしては退屈しなかったですし、例え3年半開こうと5年開こうと活動を続けていてくれることだけも正直嬉しい話です。
おわりに
最初にタワレコでこのアルバムを手に取った時の感想は「12曲で2700円!?安い!!」でした。
最近シングルでも2,000円を超えるようなCDばかり買っていたのでフルアルバム2,700円は軽く衝撃的でした。
MVをメンバーが手作りで作っていたり、雑誌掲載も控えめだったり、他のバンドと比べると様々な特徴があるバンドだと思いますが、その分のコストカットがアルバムの価格に反映されているのであれば固定ファンとしては嬉しい限りです。
ただしそれだと新規ファンは付きにくい状況になるとは思うのですが、まあバンド側が今の戦略としてこういうスタンスを取っているのであればファンとしては見守るより他ありません。
今後も世界情勢や音楽業界の変化など様々情勢の変化はあるでしょうが、People In The Boxが末永くずっと新しい音楽を作り出していってくれることを祈るのみです。
素晴らしい新作から始まった2018年、今年のPeople In The Boxの活動にも大いに期待したいと思います。