仕事で20代の求職者や若手社員と話してるとたまに「何者かになりたい」あるいは相似した言葉を聞くことがある。
しかし自分自身「何者かになりたい」と思ったことが一度もなく、感覚として全く理解出来なかったのでこの本を読んで理解しようと手に取った。
読み終わった結果、「何者かになりたい」という気持ちに腹の底から共感出来た訳ではないが、どういう理由でそのように思うに至るのか、機序は理解した。
すごく大雑把に言えば自分の構成要素(アイデンティティ)を確立しきれていない段階において発生する気持ち、ということのようだ。
あとなぜ自分が「何者かになりたい」と一度も思ったことがないのかもこの本を読んだおかげで判った。
自分は幼い頃からなんだかんたで所属欲求は満たされてたし、好きな物や趣味も沢山あってその時その時で「これが自分のアイデンティティ!」というものに事欠かなかった。
もともと自分に関わるあらゆるものを自分のアイデンティティと見なす思考の癖もあると思うし、
自分の構成要素(アイデンティティ)を頻繁に入れ替えることにも全く心理的抵抗がない。
それから、これから中年期、老年期にかけて自分の構成要素、アイデンティティにどのような変化が起こるのかを予習出来たのもよかった。
予習というか、一部のアイデンティティの変化はすでに経験済みだった。
例えば、中年になったことにより、今まで自分の構成要素として大きかった「手芸」という趣味のウェイトが徐々に小さくなってきたこともそうだ。
老眼や指の怪我によって今までのようなペースで編み物ができなくなった時、あれは一つのアイデンティティの喪失だった。
また、白髪が増えたことで染めざるを得なくなり、それまで自慢だった黒髪を維持できなくなった、あの出来事もアイデンティティの喪失だ。
しかしアイデンティティの入れ替えに心理的抵抗感が少ない、というわたしの性質のおかげで、失われた部分をすぐ他のアイデンティティで補完できてしまう、これはおそらく天から授かった一種の才能のような気すらするので、これから中年期、老年期と様々なアイデンティティを喪失していく際自分の大きな武器になるだろう。
さて、そもそもこの本を手に取る動機となったのは「20代の若者が何者かになりたいと思う気持ちを知りたい」というものだった。
その点については十分理解できたため、今度からはそういった気持ちに対してもう少しうまく寄り添えるのではないかと思っている。
当初の目的プラス自己分析にも役立つ良書だった。